ある朝のこと……

内容は2012年1月公演『エピファニー』のものです。
2012年7月公演『イースター』のストーリーは5月に公開予定です。

前回のお話:≫はじめに

「だから、どうして、帰らなければならないの!?」
「どうして、と申されましても、間もなくクリスマスだからでしょう」
「だから、どうして、クリスマスだからって帰らなきゃいけないのよ?」
「クリスマスだから、です……」
やわらかな午後の陽が差し込む室内には、クリスマスを迎える準備のアドベントリースにはロウソクの火が二本灯っている。
ご機嫌ななめのレディ・キャロラインの声に、アドベントリースの火が少々揺れたと思ったのは、バトラーのウィリアム・スペンサーの見間違いではなかったのかもしれない。
「ああ、もう」と小声で呟き、キャロラインはソファにどっかり腰を下ろした。
伯爵令嬢たる振る舞いではないことに、ウィリアム自身、すでに慣れてしまっていた。
そう、ここは少々変わり者の女主人のカントリーハウス。
ディース伯爵家令嬢、レディ・キャロラインの屋敷。
「お嬢様、クリスマスまで後二週間。伯爵閣下は今週中には『何日に帰る』との返信をするようにとの仰せです」
「あ、そう。帰らないって選択肢はないのね?お父様としては」
「それはそうでしょう。クリスマスは家族で過ごす日です。伯爵閣下もお嬢様と過ごしたいと思われているのですよ」
ウィリアムの健気なフォローの言葉も、キャロラインはふんと受け流し、壁のカレンダーを見上げる。
クリスマスまで後二週間。
クリスマスにロンドンの屋敷に帰れば、12月25日のクリスマス、1月1日のニューイヤー……
そして、きっと1月6日のエピファニーまで拘束される。
その間、何度、くだらない茶会だ、夜会だかに駆り出されるのか……。
『考えただけで、ゾッとする』
とは言っても、このまま保留にしていても、恐らく埒は明かない。
キャロラインとて父親の性格は知っている。
「帰りません」で許してくれるような父親ではない。
どんな手を使っても、ロンドンの屋敷に連れ戻される可能性は非常に高い。
そう、どんな手段だって使う、から。
それを考えると、自分に仕えているサーヴァント達のことを少し気の毒に思った。
キャロラインが折れなければ、サーヴァントを使って脅してくる可能性も無きにしも非ずだ。
「分かったわ」
暫く逡巡し、カレンダーを見上げたまま、キャロラインは心底嫌そうに呟いた。
「お帰りになられますか?」
のろのろとウィリアムに視線を移しつつ、キャロラインは押し殺した声で答える。
「帰るわよ。……12月23日に」
「…………かしこまりました」
クリスマス直前……いや、もう前日と数えられる日に帰るとはキャロラインらしいと思った。
—伯爵閣下はもっと前に戻られることを期待しているだろうが、帰ることを了承しただけでも良しとしてもらおう……。
内心、ため息をつくウィリアムをよそに、キャロラインは手元にあった紙に何やら書き始めた。
ところどころ悩み、頷き、そして書き終えた紙をウィリアムに渡す。
「はい。これ、手配しておいてちょうだい」
「何ですか?」
「見れば分かるわよ」
キャロラインから手渡された紙を読み進めるうちに、ウィリアムの表情がやや険しくなっていく。
「お嬢様、これは……」
「何?みんなのお休みについてじゃない。実家に帰ってもいいし、私と一緒に来てもいいし、みんなに選んでもらってよ」
「い、いえ、それではなくて……その後の……」
「ああ、いつもの仕立て屋に連絡しておいてちょうだい。田舎の仕立て屋なのに、なかなかの腕よね。期待できるわ」
「あ、ですから、それは……」
「あら?由緒正しい夜会じゃない。それとも、なぁに?私が夜会を開くのはオカシイって言いたいの?」
「おかしいとは申しませんが……」
「だったら問題ないわね。私は社交界デビューもしてる立派なレディよ!サロンの女主人だって出来るんだから、どうってことないわ」
「…………かしこまりました。みな、驚くでしょうし、心の準備も必要かと……」
「また心の準備?みんなで楽しく遊ぶことに、心の準備なんていらないわ!」
「楽しい、ですか……」
「何よ、不服そうね?楽しくないの?」
「いえ、楽しいです。…………恐らくは。特にお嬢様は」
「早く年が明けないかなぁ。楽しみね!」
「はい……そうですね。伯爵閣下に、手紙を出しておきます」
「うん。お願いね!その他のことも、イロイロと」
「……かしこまりました」
一礼をして部屋を退出したウィリアムの顔色が少々冴えなかったのは、決して屋内の灯の問題ではないようだ。
そして、部屋を出た後、多忙な年末年始を思い、ふらりと壁に凭れ込んでしまったことは、幸い他のサーヴァント達に
見られることはなかった。

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