サンザシの咲く庭

「腕の良いガードナーも雇ったし、5月が楽しみね!」
居間の窓から見えるサンザシを見上げ、キャロラインは満足そうに呟く。
「お嬢様……今年、植え替えをしたばかりのサンザシがそんなに早く咲くとは思えませんが?」
アフタヌーンティーの準備をしていたウィリアムは、やや呆れた声で返す。
「何故?通常のサンザシより、ずっと成長が早いと書いてあったわ」
「少し、ですよ。いくら、ジンデル博士でも……」
「トーマスは優秀な植物学者よ!?トーマスの実力を疑っているの?」
「そんなことは御座いません。ですが……常識的に考えてですね……」
「常識に捕らわれていると、大切な物を見失うわよ?ウィル」
「何ですか、それは……」
「遊び心も必要ってことよ」
「そうですか」
「そう、なの!」
「そう、ですね……」
ウィリアムは一つ短く嘆息すると、十分に温まったカップに紅茶を注ぐ。
紅茶が注がれる音につられ、ウィリアムが椅子を引く間もなくテーブルに着き、早速、優雅に並べられたスコーンやガレットに手を伸ばす。
お行儀が悪い、などともうウィリアムは咎めることはない。
これが、レディ・キャロラインというディース伯爵家の伯爵令嬢であり、自分が仕える主人であるのだから。
「また、おかしな……いえ、お嬢様の言うところの『面白いこと』はなさらないでくださいね?」
「は?サンザシが綺麗に咲いて、お礼のお茶会を開くなら、やっぱり面白いことしなきゃいけないんじゃない?」
「ジンデル博士はきっと普通のお茶会を望んでらっしゃいますよ」
「そう?トーマスって、私以上に面白いものに目がないわよ?」
「そうでしたでしょうか……」
「トーマスの性格知ってるでしょ?」と問いかけるキャロラインの視線をさり気なく避けながら、ウィリアムは曖昧な答えを返す。
ウィリアムだとて、知り過ぎる程知っている。
トーマス・ジンデル博士という、頭脳明晰で優秀な植物学者が、どんな厄介な性格なのか。
『ディース伯爵家に縁のある人間はどうして、こうも揃いも揃ってお祭り好きなのか……』
「サンザシの花が咲くのが楽しみね。今度は、何をしようかなぁ」
「あまり突飛なことは……」
そこまで言いかけて、ウィリアムはいつぞや同じ会話をしたことを思い出した。
『何を何度も言っても同じか……』
「楽しみですね。お嬢様」
ウィリアムの予想外の返答に、キャロラインは持っていたスコーンを落としそうになった。いや、たっぷりかけたブリザーブが、一滴二滴、テーブルクロスに染みを落とした。
「……うん。やっぱりみんなで楽しめるお茶会にしなくちゃね!」
是とも否とも答えず、ウィリアムは少なくなったキャロラインのカップに紅茶をゆっくり注いだ。

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